家庭内事故 と 住宅設計
〜安心して暮らせる家をつくるために〜
意外に感じるかもしれませんが、家庭内で発生する事故は交通事故よりも多いといわれています。
消費者庁の統計によると、家庭内での不慮の事故死者数は年間約1万3千人(2023年)で、その約8割が高齢者ですが転倒や転落、溺水、やけど、窒息などが主な原因です。
私たち工務店としても、「省エネ」や「デザイン」と同じように、この“安全設計”を住まいづくりの基本に位置づけることが大切だと考えています。
家庭内事故の多い場所と傾向
家庭内事故が多いのは、次のような場所です。
■発生場所 ■主な事故例
浴室・脱衣室 ⇒ 転倒、ヒートショック、溺水
階段・廊下 ⇒ 転倒・転落
キッチン ⇒ やけど、刃物によるけが
居室 ⇒ 転倒、家具の転倒
玄関 ⇒ 段差での転倒
特に冬場は、暖かいリビングから冷えた浴室・脱衣室へ移動した際の『急激な温度変化(ヒートショック)』が命に関わる事故につながることもあります。また、子どもの場合は、テーブルの角やコンセント、誤飲など、成長段階に合わせた配慮が欠かせません。
設計で防げる事故がある
家庭内事故の多くは、実は「設計」で未然に防ぐことができます。
たとえば次のような工夫です。
①段差のない床仕上げ(玄関・廊下・浴室など)
②滑りにくい床材の選定(フローリングでも艶消しや木目調で摩擦係数を高める)
③照明スイッチの位置を、手探りで迷わない高さに
④階段手すりの連続性(途中で途切れないデザイン)
⑤角の少ない造作家具で転倒時のけがを防止
これらは特別な設備ではなく、設計段階で少し意識を変えるだけで実現できることです。

にっけん太も考えます
温熱環境とヒートショック対策
ヒートショックの要因は「家の中の温度差」。
高断熱・高気密住宅では、気密性を確保することにより各室の温度差を小さく出来るため、浴室やトイレも快適で安全になります。
①基礎断熱で床下も室内と同じ環境にする。
②断熱窓・断熱壁で冷気を遮断し浴室や脱衣室、トイレを暖かくする。
③屋根断熱を施工し、小屋裏も室内と同じ環境にすることにより家全体を包み込む構造にする。
これにより「温度のバリアフリー化」が進み、ヒートショックのリスクを大幅に下げられます。
そして省エネ性能を高めることは、安全で快適性能を高めることにも繋がるのです。
家庭内事故は、ほんの小さな段差や温度差、照明の位置など、日常の中に潜んでいます。
しかし、見方を変えればそれらは住宅設計で防ぐことができる事故でもあります。
新築でもリフォームでも、「見た目」や「性能」だけでなく、「安全」を暮らしの基盤に据えた家づくりが、これからのスタンダードになるでしょう。
塩毛康弐