家の設計は「ゾーニング」から始める。いきなり間取りから始めると後悔することに

家づくりはいきなり間取りから考えると後悔することがあります。重要なのは敷地条件・光・眺望・隣家との距離などを踏まえたゾーニング。土地の特性を活かす設計こそ快適な住まいの第一歩です。

 家づくりを相談すると、多くのハウスメーカーや工務店が最初に始めるのは「間取り」からです。雑誌やWebSNSには参考になるアイデアが無数にありますし、ハウスメーカーのプラン集などは見ているだけでも夢が広がります。

しかし、いきなり間取り(プランニング)から始めると、後から取り返しのつかない後悔を生むことがあります。その理由は、建物が建つのはカタログの中や広告の世界ではなく、実際の敷地の上だからです。敷地の特徴を無視して理想の間取りを決めてしまうと、暮らしやすさ・快適性・光や風の入り方・プライバシー・四季の体感等が大きくずれてしまいます。

 ■ 最初に行うべきは「ゾーニング」

住宅設計のスタート地点は、ゾーニング(空間配置計画)です。ゾーニングとは、敷地条件を理解しながら、玄関はどこに配置すると使いやすいか・リビングはどの方向が明るくて開けているか・家事動線はどう繋ぐと効率が良いか・プライベート空間と来客動線をどう分けるかなど、「家をどのように使い、どのように暮らすか」を面として考える工程です。この段階では、細かな寸法や壁位置は決めません。むしろ、自由に大きな視点で暮らしの性格を設計する時間とも言えます。

土地の特徴を読む

 ■ ゾーニングで必ず考えるべき要素

敷地は一つとして同じものがありません。そのため、以下の条件を丁寧に読み解くことが重要です。

① 方位と四季の日当たり

冬は太陽が低く、リビングに奥深く暖かい光を届けます。

夏は太陽が高く、軒や庇で遮りやすくなります。

特に冬の日差しを確保する設計は、住まいの快適性・暖房効率・健康に大きく影響します。

② 隣家の窓・視線・音

こちらが窓を開けた瞬間、真正面に隣家の窓。これはよくある失敗例ですがゾーニング段階で視線や音の抜けを計画すれば開放感とプライバシーを両立した設計が可能になります。

③ 隣家の影・建物高さ・将来の変化

一日を通した影の動き、将来隣地に建物が建つ可能性、空き家や駐車場の変化、これらは光環境や外観、植栽の成長にも関わります。

④ 眺め・抜け・借景

近くに公園や田畑、樹木、空の広がりがある場合、その景色は家の価値そのものになります。たった1枚の窓の位置で暮らしが変わることも珍しくありません。

 

■ ゾーニングを省略した家は、暮らしてから気づく不満が多い

ゾーニングをしない、短期間で間取りを固めてしまうと、次のような声が出てきます。

「朝日が入ると思っていたのに暗い」

「カーテンを閉めっぱなしで生活している」

「日差しが暑すぎて夏は過ごせない」

「隣家の窓が近くて落ち着かない」

これらは家が完成してからでは修正ができません。つまり、失敗は建てる前の計画段階で起きています。

 ■良い間取りは「ゾーニングの延長線上」にある

理想の家は「間取り集」からでは生まれません。敷地を読み、自然と共存し、暮らしにフィットする設計から始まります。家づくりのスタートは、“どこに何を置くか”ではなく、その土地に、どんな暮らしが似合うのかを考えること。これこそが、後悔しない家づくりの基本であり、ゾーニングは多くの建築家が行う一番大きな特徴なのです。

 塩毛康弐