その敷地にしか建たない家をつくるということ―後悔しない家づくりのために

家づくりを考え始めたとき、多くの方は「どんな間取りにしようか」「どんなデザインが良いか」というところから想像を膨らませるのではないでしょうか。それはとても自然なことですし、家づくりの楽しさでもあります。ただ一方で、住み始めてからの後悔が多いのも、この最初の段階で「見落とされやすいこと」が原因になっていると感じます。「完成した家」ではなく「暮らし始めた家」を想像することが大切です。家は完成した瞬間がゴールではありません、本当のスタートは、住み始めてからです。

 朝、どの部屋に最初の光が入るか、冬の日中リビングはどれくらい暖かいか、休日に家族が自然と集まる場所はどこか。こうしたことは、カタログやプラン集の中ではなかなか想像できません。同じ間取りでも、敷地が違えば暮らしは変わります。敷地の向き、隣地建物の位置や高さ、周囲の環境が違えば住み心地はまったく別のものになります。 「この間取りが気に入ったから」という理由だけで家づくりを進めてしまうと、思っていたより暗い、冬が寒い、外からの視線が気になるといった違和感が、少しずつ積み重なっていくことがあります。

 注文住宅の本当の意味とは

「注文住宅」と聞くと、自由な間取りやデザインを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし本当の意味での注文住宅とは、この敷地に この環境で このご家族が 心地よく暮らすための答えを一から考えることだと私たちは考えています。それは、どこかで見た正解を当てはめることではありません。敷地を読むことは、施主様の未来を考えることです。敷地の日当たりや影、風の通り、周囲の建物、これらを丁寧に読み取ることは、将来の暮らしやすさ、光熱費のかかり方、家で過ごす時間の質を左右します。設計の初期段階でこの部分を大切にすることが、「住んでから良さが分かる家」につながります。

 後悔しない家づくりのために

家づくりは、一生に何度も経験するものではありません。だからこそ決めやすさ、分かりやすさ、スピード感、だけで進めてしまうのではなく、「この敷地で、どんな暮らしができるのか」を、一度立ち止まって考えてみてほしいと思います。家は敷地と切り離して考えることはできません。だからこそその場所に立ち、光を感じ、風を感じ、周囲の環境を知る。そこから生まれた家は、きっと 「その敷地にしか建たない、あなただけの住まい」になります。それが、私たちが家づくりで一番大切にしていることです。

★連載を読んでくださった方へ

この連載では、プランより先に敷地を見ること、日照を感覚ではなく設計で考えること、設計者が現地で何を見ているのかをお伝えしてきました。これから家づくりを考える方にとって、「少し視点が変わるきっかけ」になれば幸いです。

 

塩毛康弐