断熱改修工事前後の室温シミュレーション

今回は弊社で15年前に建てたモデルハウス「なごみの家」について、断熱改修をした場合の室温シミュレーションを見て行きたいと思います。

現状のモデルハウスのUA値 0.64W/㎡・K(外貼り断熱)

※UA値:内外温度差1℃あたり・1㎡あたりに通過する熱量(熱の抜けやすさ(抜けにくさ))を表し数値が小さいほど熱が抜けにくくなります)

実際は24h換気設備にジオパワーという地熱利用の熱交換換気が入っていますが、ここでは3種換気を想定してシミュレーションします。

<断熱改修案>

・現状が外貼り断熱仕様であることを考え、改修コストを抑えるため、外壁側はそのままとし室内側の天井と壁のみをやり替え、屋根面と外壁面に充填断熱を付加し付加断熱仕様にする。
・既存の窓の内側に、インナーサッシを入れて、2重サッシにする。
・換気はダクトレス1種の熱交換換気を新設する。
※断熱仕様が変わると壁内の結露の仕方も変わってくるので、実際は結露計算も行い確認するのが望ましいです。
※既存の住宅は気密性が低いことが多いので、断熱と同時に気密性を高める検討も行う必要があります。
※ここでは耐震には触れていませんが、耐震改修も同時に検討されるとよいかと思います。

これらを行うことで、UA値は0.64W/㎡・K(断熱等級4)から0.35W/㎡・K(断熱等級6)に向上、日射熱取得率は1.8から1.1にかわりました。
(外皮(壁や窓、屋根面、基礎)から抜ける熱損失量が45%削減、日射熱取得量は39%削減となります)
※出来れば冬場の日射は減らしたくないので、日射熱取得率はあまり下げたくはないのですが、今回は窓の断熱向上の方がメリットがあるのでこちらを優先させました。

 

文字だけではわかりにくいのでさっそく室温のシミュレーション結果を見てみます。

まずは建物形状の入力はこんな感じです。

実際の写真はHPの展示場のなかにも入っていますのでよろしければ見てみてください。

 

<現状の自然室温>(冬場1月8~9日)

自然室温・・エアコンなど暖房器具を使用していない状態の室温

自然室温ですと一番温度の低くなる朝方で6℃~7℃、昼間で13℃程度になっています。

10年以上前に建てられた家では、エアコンなしの朝方に室温が10℃切ることもよくあるのではないかと思います。

<現状の自然室温>(夏場8月21~22日)

エアコンを付けないと、夏の昼間で31℃を超えてきている時間があります。夏は湿度が高く、蒸し暑くなるので、家の中でも熱中症になる可能性があります。

※2014年の全国の熱中症発生状況では、救急車で搬送された患者の内、65歳以上の33%、40~64歳の23%は住宅内で発生しているという結果になっています。

夏は暑いと思ったら無理せずエアコンを使用してくださいね。

 

<現状でエアコンをつけた場合>(間欠運転 居間 23畳用エアコン、子供室14畳用、寝室8畳用)

(冬)

(夏)

上のように、居るときに居る部屋だけエアコンを稼働させるのがエアコンの多い使われ方です。

エアコンの稼働している部屋は暖かい(若しくは涼しい)ですが、間欠運転の場合はどうしても他の部屋との温度差が出てきてしまいます。

一見、スポット的に冷暖房ができるので省エネのように見えますが、空気の温度によって含むことができる水蒸気の量の限度が変わりますので、水蒸気の移動によって露点温度が低い箇所で結露などが起こりやすくなります。さらに、梅雨から夏にかけて相対湿度が70%以上が保たれる状態が長く続くとカビも発生しやすくなります。そう考えると収納部屋や押入れなども、結露やカビが発生しにくい温度に保たれている方がよいと言えます。

<上のシミュレーションによる現状の冷暖房費>

上記運転の場合、暖房費で年間で約85000円、冷房費で約10000円程度となっています。

※電気代は32円/kWhでの計算になります。

 

次に断熱改修後の室温シミュレーションです。

<断熱改修後の自然室温>(冬場1月8~9日)

改修前に比べて、一番温度の低くなる朝方の室温が11℃程度(3~4℃改善)、昼間で14.5℃程度(1.5℃改善)になりました。

<断熱改修後の自然室温>(夏場8月21~22日)

改修前に比べると、最低温度は逆に1℃上がっていますが、断熱性が良くなったことで室内の熱が外に逃げにくくなっていることが原因です。

ピークの室温は29℃で2℃程下がっています。

<改修後でエアコンをつけた場合>(連続運転 居間 10畳用エアコン、2Fホール 10畳用エアコン)

(冬)

(夏)

<改修後の冷暖房費>

断熱を大きく上げたことで、エアコンを連続運転させても、改修前に比べて暖房費で年間約37000円削減、冷房費で約5000円削減となりました。

さらに室間の温度差も少なくなり、室温も快適に過ごせる範囲内に収まっていますので、住み心地は断然に違ってくるかと思います。

最後に冬場(暖房期)の各部位からの熱の出入りを見てみましょう。

<現状>

<改修後>

スケールが違うので、グラフだけ見ると暖房負荷があまり減っていないように見えてしまいますが、連続運転しているにも関わらず、年間約2400kWh削減できたことになります。

もう少し細かく見て行きますと、熱ロスの削減量が大きくなっているのは、断熱改修した外壁と窓で約1000kWh/年の削減、それと24h換気を3種換気から全熱タイプの1種換気の変更したことで、こちらも1050kWh/年程度の削減が出来ています。それと漏気は実際にはゼロにはならないのですが、設定上これより少ない調整ができないのでゼロになっています。(その分、局所換気の熱ロスを少し増やしました)

断熱改修をコスパで考えた場合、通常は先ずは熱損失の大きい窓の強化なのですが、全窓に内窓2重サッシすると、大まかになりますが70~100万円ぐらい掛かります。(現在は先進的窓リノベの補助金が出ていて、20万程度以下でできたりするので検討されている方はお早めに!)

上の数値からは3種換気からダクトレス1種換気に変更することが一番コスパが良いように思えますが、これは断熱改修+気密工事とセットになって本領発揮すると思いますので、既存住宅に換気単体の交換だけではここまでの熱ロス削減は計れないかもしれません。そのかわり、断熱と気密がしっかりしていれば、熱交換型1種換気の導入は大きな熱ロス削減になるかと思います。

省エネという観点でみると、その他に給湯設備を高効率のヒートポンプ型に変更したり、照明をLEDに変更、太陽光発電の設置などで光熱費を削減することができます。

どこまでの工事内容にするかは初期費用との相談となりますが、断熱改修リノベーションで住み心地がどのように変わる可能性があるを見て頂けたのではないかと思います。

実際にはこのほかにも検討箇所はたくさんありますが、ご参考になれば幸いです。

TAKANAKA